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溶湯の粘度

今回は溶湯の粘度について考えてみます。

一般的には、「金属が溶けて液体状態にあるとはいえ、粘性だから水よりは流れにくいだろう。」と考えるのではないでしょうか。 鋳物というものは鋳型に液体状態の金属を流し込んで作るため、その粘性抵抗が大きくなれば鋳型への充満に時間がかかり、途中で固まる可能性が あります。
液体の粘性は、物理学的には粘性係数(記号η)という数値で示されますが、液体が流動する場合の粘性抵抗には、粘性係数のほかに密度(記号ρ)も 関与し、ηをρで割った値(これを動粘性係数または動粘度(記号ν)といいます)ν=η/ρ が粘性抵抗を支配する要因となります。
もともと溶融金属のηの値が小さいうえに、ρの大きいことが重なるので、νの値は極めて小さくなります。
下表に主な溶融金属のνとρの値を示してみます。(概略)

液体の種類 動粘度ν( 10-2×cm2/s) 密度ρ(g/cm3) 温度(℃)
1 1 20
エチルアルコール 1.5 0.8 20
0.5 7.1 1550
鋳鉄 0.7 6.9 1400
0.4 7.8 1200
アルミニウム 0.2 2.5 800
0.13 6.9 1400
亜鉛 0.17 7.0 600
0.13 11.4 500
水銀 0.11 13.5 20

これを見ると意外にも金属の方が水よりも流れやすいことがわかります。

三次元構造ストレーナ

当社において従来は

1 )丸穴のタイプ (いわゆるレンコンと呼ばれる物)

2 )格子状のハニカムタイプ (300メッシュというように呼ばれる物)

の2種類の二次元構造のフィルタを使用していました。


どんなに細かいメッシュを使用しても、それよりも小さな介在物は通過してしまい効果がありません。
このことは従来より不良の大きな原因の一つとなっていました。

この不良率の低減を狙って、昨年より三次元の網状構造を持つセラミック・フォーム・フィ ルタをストレーナとして実験的に使用してきました。
スポンジのような形状をもつこのフィルタは、複雑な形状の内部を溶湯が通過する際に 方向の変化が現れ、流速の変化を生み出します。
この流速の変化を利用して比重の軽い介在物を分離しています。 また、このフィルタにはもう一つ利点があります。
それは二次元構造のフィルタと違ってストレートに通過する溶湯が無くなることにより、 静流効果をもたらすことです。
この静流効果によって湯道系内における溶湯乱流の発生と空気の巻き込みが押さえられ、 流速も一定になります。

このように良いことづくめの様に思われ、10年も前から存在しているのに鋳鉄分野では使用されていても銅合金の分野ではあまり使用されていません。 それは、この三次元構造を使うとその構造状、温度ドロップと流速のドロップが避けられないことが、鋳込温度の低い銅合金では致命的だったためです。

三次元構造ストレーナの実用化にむけて

そこで当社では下記の2点を改善することによって実用化の目処をつけました。

1 )フィルタの厚さを薄くする(メーカー側で対応)

2 )湯道系を含めた方案全体を再設計する

もともとこの欠点さえ克服すれば良いことづくめな訳ですから、現在では主力製品のほとんどに使用しています。 実際に使用していると、当初の目的であった介在物の除去以上に清流効果が良い面をもたらしてくれました。 当社ではもともと鋳込み位置が高いために注湯初期段階における乱流が多く、問題となっていたのです。

介在物の除去だけでなく、鋳込み速度が速すぎたり、乱流、巻き込み等で困っている方は一度検討されてはどうでしょうか。